「漢方での治療を希望しているが、可能ですか」というお問い合わせをいただくことがございます。
当院では、一般薬(西洋薬)での治療に加え、補助的にいくつかの代表的な漢方エキス製剤を処方することもありますが、絶対に漢方薬だけで治療をしてほしいというご要望には、お応えすることが困難です。
漢方治療を希望される多くの患者様は、「自然のものしか体に入れたくない」「一般薬に比べて副作用が少ないから漢方薬で治療を」とおっしゃいます。
しかし、私の経験が少ない割に、肝機能障害などが出たケースはそれなりにあります。一般薬の副作用の方が、経験も多いだけに、どの様に対応するかという選択肢を多く持ち合わせています。
漢方薬の方が副作用が少なくて安全だから処方せよ、とおっしゃいますが、漢方治療の世界はものすごく奥が深いです。患者さんは自分が飲むのに漢方の方が安全、と気軽に思っておられますが、私が処方した場合にどちらの方が安全か、という問題があり、出す方は全然気軽ではないのです。漢方薬は効かない、一般薬の方が効果がある、とバカにしているからやらないのではなく、あの漢方の深遠な世界を勉強なさっている先生方を強くリスペクトしています。むしろ私のように、漢方を極めている訳でもない医者が気軽に使えるようなものではありません。
保険適応になっている大手の製薬メーカーが発売している漢方薬は「エキス製剤」です。
製薬から抽出した成分の「カクテル」として販売されています。賦形剤なども添加されており、天然由来成分100%でもありません。診察室には大手メーカーが配布する大判プラ製の「下敷き」状の板があり、それを見れば私のような漢方の素人でも、この症状ならこれ、というようにある程度処方ができるようになっています。普段出しなれない漢方を追加処方すると生薬の成分被りをしてしまい、薬局からダメだしされることもあります。そのレベルで、「私は漢方治療にも積極的に取り組んでいます」と言わせていただくのはあまりにもおこがましい。
あくまでも私個人の考えですが、漢方独自の診察技量をもち、脈診・腹診・舌診等も行い、「証立て」して処方を選ぶ、私ならそれが出来て初めて「漢方治療もやれますよ」と胸を張って患者さんに言います。
私の先輩の中に、漢方治療を非常に得意とされているドクターがおられます。その方の開業されたクリニックには生薬の壺が壁一面に並んでいるそうです。千と千尋の釜爺を思い出してください。自ら生薬をゴリゴリ調合できるんですね。ちなみにそうして漢方薬を処方する先生の多くは、コストに見合わないため自費診療にされていらっしゃいます。
どうしても漢方薬だけで、あるいは漢方を駆使して治療をしてもらいたい、と希望される患者様は、申し訳ありませんが、本当に漢方を得意とする医療機関を選択していただきますようお願い申し上げます。
漢方治療について